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最高裁判所第二小法廷 昭和61年(行ツ)176号 判決 1988年7月15日

神戸市中央区小野柄通七丁目一番一八号

三宮ビル

上告人

大竹貿易株式会社

右代表者代表取締役

上原満男

右訴訟代理人弁護士

田宮敏元

香山仙太郎

神戸市中央区中山手通三丁目七番三一号

被上告人

神戸税務署長

右指定代理人

竹本廣一

右当事者間の大阪高等裁判所昭和六〇年(行コ)第五九号源泉所得税納税告知処分等取消請求事件について、同裁判所が昭和六一年九月二五日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があつた。よつて、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人田宮敏元、同香山仙太郎の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。所論違憲の主張は、その実質において単なる法令違背を主張するものにすぎず、原判決に法令違背のないことは、右に述べたとおりである。論旨は、ひつきよう、所得税法上の源泉徴収の法律関係及び同法二条一項三号にいう住所の意義に関する独自の見解に基づき原判決を論難するものであつて、採用することができない。

よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判庁裁判官 牧圭次 裁判官 島谷六郎 裁判官 藤島昭 裁判官 香川保一 裁判官 奥野久之)

(昭和六一年(行ツ)第一七六号 上告人 大竹貿易株式会社)

上告代理人田宮敏元、同香山仙太郎の上告理由

第一点 本件各告知処分は、納付の告知に名を籍りた所得税の更正処分であり、このような更正処分は憲法八四条に違反する処分である。その理由は次の通りである。

大竹成正は、上告人に対し、昭和五一年八月六日福井市中町一丁目一三〇七番地より香港マクドネル通り一一四グロスベナーハウス二〇四号に移転した旨の申告をなし、また同所より昭和五六年五月六日香港ケインロード一一〇-一一八オンフンビルD-二二号に移転した旨、申告があつたので、上告人は同人の申告が、香港政庁の人民登録法にもとずく正規の証明書によりなされていることを確かめ、同人を非居住者として取り扱い、これに基づいて所得税を計算し源泉徴収して納付したものである。これに対し、被上告人は、実質的に調査判断したとして、同人の意志に反しこれを居住者として所得税を計算し、その差額を、源泉徴収義務者より徴収すべき不納付所得税であるとして、所得税法(以下法と称する)二二一条、国税通則法(以下通則法と称する)三六条一項二号により、上告人に告知処分をしたものである。

しかし、法二二一条、通則法三六条一項二号は共に所得税の徴収及び納付に関する規定であつて、これに基づく納付の告知は、国税を徴収するための処分に過ぎず、それには納付すべき税額が確定していることを前提としている。即ち確定した所得税については、この納付の告知はなしうるが、この告知によつて所得税を更正し、これを以て恰も確定所得税であるかのようにその納付の告知をなすことなどはできない。源泉徴収による所得税は給与等の支払の時に確定するとされており(通則法一五条二項二号、三項二号)各月に支払われる給与についても、その支払の際に所得税は確定し、これを徴収し納付するものとされている(法一八三条)。しかし、この確定所得税とは、支払の際給与所得者の申告(法一九四条より一九八条)に基づいて、法一八五条に定める計算によつて自ら決定される税額であつて、源泉徴収義務者においてこれに従つて正しく計算し、これを徴収し納付している限りは、これと異なる税額を確定した税額として、通則法三六条一項二号によつて、その納付の告知処分は出来ないと解すべきである。本告知処分は源泉徴収義務者がその計算した所得税を徴収せず、又はこれを徴収しても納付しない場合にのみ、税務署長がその徴収のためになされるものである。(法二二一条)。仮にその確定計算に過誤があつたとしても、源泉徴収義務者において、これを是正追納付せしむべきであつて、この是正のない限り、確定手続を経ずして告知処分によつて徴収はなし得ないものと解さなければならない。もつとも、現行法においては、源泉徴収義務者に対する月額所得税の更正又は決定処分の手続は設けられていないが、それであるからといつて、告知処分を以てこれに代えることは許されない。それは何等法律の定める条件によらずして課税するものであつて憲法八四条の課税の要件に反し違憲である。

このような源泉徴収義務者に対する更正、又は決定処分が認められていないのは、これがそもそも第三者の所得税であり、その計算も、明確な証明に基づく形式的なもので誤りが少ないというだけではなく、仮に毎月この月額所得税が確定されるとしても、年末調整をなすべき給与については、その年中に支払の確定した給与につき基礎控除など諸控除を差引き、所定の計算手続に従い(法一九〇条)、殆ど確定申告による税額と同じ税額を算出し、月額税額の総計をこれに修正し、その税額の過不足を調整するので(法一九一条、一九二条)、この限りでは月額所得税は確定せずその年最後の給料の支払の時にこの所得税が確定されると言えるし(法一九〇条)、年末調整をしない給与又は年末調整をなしても、一定の他の所得のある場合は、更に確定申告によつて合算、修正が必要とされるので、年末調整だけではこの税額は確定せず、この確定申告によつて計算された所得税によつて修正され始めて確定されると言え(法一二〇条、一二一条)、そして更にこれに対して更正又は決定(通則法二四条より二六条)があれば、このとき、確定申告による所得税額も変更確定されることになると言える。即ち月額所得税はその年度における過度的な確定方法に過ぎず、従つてこれに対する更正処分を認めても無意味であり、却つて複雑で混乱を招くに過ぎないため、源泉徴収義務者による自主的な月額若しくは年末調整の是正、或いは本人による所得税の修正申告(通則法一九条)又は税務署長による更正決定処分に委ねるべきであると考えられたからである。

これに反し、本件上告人主張のように、本人の申告に従い且つその計算に過誤のない限りは、仮に税務署長より是正の要請があつても、本人の意志に反して一方的に自主的是正もなし得ないと解すべく、又税務署長においても、その年度の如何を問わず、かかる更正処分としての告知処分はなし得ず、又不納付加算税も賦課し得ないと解すべきである。なんとなれば、仮に税務署長が実質的調査により計算の根拠となる給与所得者の申告に誤りがあると判断しても、本人に対する告知・聴聞の上これを確定申告に対する更正又は決定として正すべきであるからであり、更に又、仮に後日における更正又は決定が正しい処分であつたとしても、遡つて月額所得税が確定されるものではなく、これによつて源泉徴収義務者に不納付加算税を課すべきものでないからである。本件係争処分については、上告人はその月額給与支払の際、同人が非居住者として申告しているので、これによつて計算した所得税がその際の確定税額に当り、後日被上告人が居住者としてその税額を更正又は決定したとしても、遡つて支払の際の確定税額となるものではなくかかる告知処分、並びに不納付加算税の賦課処分は憲法八四条に違反する。

第二点 本件各告知処分は、大竹成正にとつて何等告知聴聞の機会を与えることなく財産権を奪うものであつて、憲法三一条、二九条、三二条に違反するものである。その理由は次の通りである。

仮に更正又は決定をするとしても、このような非居住者か否かの重大な個人的利益について、これを更正し又は決定するには、被上告人は、自らこれを更正又は決定することなく同人の住所地と主張する所轄税務署即ち芦屋税務署に移送すべきである。そして同署の調査の下に、同人に対する告知・聴聞の手続を経て、芦屋税務署長により、同人を名宛人とし、通則法二四条から二六条まで並びに法一五四条、一五五条又は一六八条により更正及び決定をなすべきである。況んや源泉徴収義務者に対する所轄官庁に過ぎない被上告人(神戸税務署長)が、源泉徴収義務者である上告人を名宛人とし、実質的に同人に対し、所得税を更正決定する目的でありながら、これを単なる上告人の不納付の所得税と同様に取り扱い、通則法三六条一項二号によつて納付の告知処分をするようなことは到底許されないものと解すべきである。もしこのような告知処分によることが許されるならば、同人は何等告知聴聞の機会を得ることもなく、上記更正処分による手続きと異なり、その居住の有無を最も良く判断しうる芦屋税務署長の調査を受けることもできず、又通則法二八条、法一五四条、一五五条に定める更正通知書(更正の理由の付記を含む)を受け取りえないだけではなく、通則法七〇条に定める更正、決定等の期間制限(三年)の適用を受けることもできなくなる。その上被処分者でないため自己自ら不服申立てをすることができず、従つてその不服申し立ての前置を訴訟要件とする取り消し訴訟も提起することができず、その救済を全く居住とは無関係な第三者たる他人(源泉徴収義務者)に依存しなければならないこととなる。従つて同人はこの本件各告知処分により、何ら告知聴聞の手続きを経ることなく、違法な手続きによつて財産権を侵害されることになり、しかも裁判を受ける権利まで奪われることになるのであつて、このような処分は、同人に対しても憲法三一条(法廷手続きの保障)、二九条(財産権の保障)、三二条(裁判を受ける権利)に反する違憲の処分である。

上告人は、同人に給料を支給した源泉徴収義務者にすぎないが、同人との意見の相違のため同人よりの源泉税額の返還、損害賠償の請求もありうることであつて、同人の違憲の主張につき、所謂憲法訴訟上の当事者適格を有するものである。また、単に同人ばかりではなく、すべての給与受給者のためにも、例えば住民票に記載された親族につき、扶養、同居等の否定、或いは住宅取得控除の否定など、申告内容が事実と異なると認定し、被上告人がその申告と異なつた内容の更正をするため、本来なすべき更正処分を回避し、源泉徴収義務者に対する告知処分を利用し、法律上の救済を求め得ない方法で課税することのないよう、このような告知処分が、重大なる人権侵害として通則法三六条一項二号の所謂適用違憲に当たることを上告人は主張しうる当事者適格を有するものである。よつて上告人は憲法三一条、二九条、三二条に違反する旨を主張するものである。

更に、本告知処分については、被上告人は同人を居住者として所得税額を計算しているだけではなく、同人の給料を単に扶養控除申告書がないという理由だけで、通常の甲欄によらず、倍額に相当する乙欄によりその税額を計算している。通常、非居住者にはかかる扶養控除申告書が提出されないのは当然であつて、同人はこの処分を受ける前年までの計算では、甲欄によつて計算されており、他に給与はなく上告人が主たる給与の支払者であることを、被上告人は十分これを知りながら乙欄としてこれを計算し、上告人に告知しているのである。仮に居住者として芦屋税務署長より更正を受けるならば、この税額は甲欄で計算したものと同額となるはずである。そして五年間総計で告知処分の四分の一の税額は減少することになる。この乙欄での計算がいかに不合理なものか、第一審原告第四準備書面四頁六、で主張している。更に、本来ならば通則法七〇条によつて更正若しくは決定期間が三年に制限せられているので、昭和五二年三月より五三年一二月による所得税額の更正又は決定をなし得ない筈である。しかし、同人にはこれらについて、何の救済手段も存在しない。これらも又、明らかな所謂適用違憲の一証左である。

第三点 源泉徴収義務者の納付徴収義務は、形式的審査義務に基づくものであつて、これを遵守している上告人に対し告知処分をなすことも更に不納付加算税を賦課することも何れも違法である。その理由は次の通りである。

給与等の支払をする者その他所得税法第四編第一章から第六章まで(源泉徴収)に規定するものは、所得税法の規定により、その支払にかかる金額につき源泉徴収をする義務があり(法六条)、そして通則法三四条一項(納付の手続き)に規定する納付書に大蔵省で定める計算書を添付しなければならない、とされており(法二二〇条)、もしこの所得税が法定納期限までに完納されなかつた場合は、通則法第三六条一項二号(源泉徴収等による国税の納税の告知)の規定により納税の告知決定を受け、同法六七条により正当な理由のないかぎり不納付加算税が課される(現実には正当な理由は殆ど認められない)ことになつている。

かかる給与等の源泉徴収義務者がその計算をするに当たつては、その支払給与等につき給与者が源泉徴収義務者に提出した各種申告書の記載ならびにその提出した書類により、その税額を計算しこれを徴収の上、納付するものであつて、形式的にその真偽を審査する義務を負つても、その内容を調査し実質的にその真偽を明らかにし徴収すべき税額を計算して納付する義務まで負うものではない。これらの申告書は、給与等の支払を受けるものが当該支給者を経由して所轄税務署長に提出されるものであり(法一九四条)、この支払者に受理された日に、その規定する税務署長に提出されたものとみなされるのであるから(法一九八条)、支払者においてこれを実質的に調査しこれを訂正したうえ税額を計算する権限を有するものではなく、したがつてまたかかる義務を負うものでもない。極めて多数の受給者につきこのような過大な義務を課することは不可能を強いることであり、また公的私的に証明力のあるこれらの書類について、形式的審査にとどめても十分その目的を達しうるからである。

従つて、法二二一条の「(源泉徴収)の規定により所得税を徴収して納付すべき者がその所得税を納付しなかつたときは、税務署長は、その所得税を徴収する。」と定める「その所得税」とは、かかる形式的審査義務に基づいて計算した所得税を指すものであつて、通則法三六条一項二号の告知も、この所得税を徴収又は納付しなかつたときになされるものであり、それが故に、支払者(源泉徴収義務者)の責任として不納付加算税も課されることになつているのであつて(同法六七条)、その実質的調査によつてこれらの申告書などの書類と異なつた事実に基づき所得税の税額を更正する必要があるとしても、これは支払者の義務の範囲外のものであるから、税務署長は自ら、もしくは管轄の税務署長に移送して、通則法二四条から二六条並びに法一五四条、一五五条又は一六八条により、直接本人に対して更正又は決定などの処分をすべきであつて、実質的に審査義務のない支払者に対して通則法三六条一項二号による告知処分はなし得ないものと解すべきである。その住所についても、非居住者か居住者かについても、支払者たる上告人は同人の住所の申告が実質的に正しいかどうかを審査し判定し、これにより所得税を計算する義務はなくその登録証明書が正規のものであるかどうかを形式的に審査し所得税を計算し徴収して納付すれば適法であつて、これに対する告知処分並びに不納付加算税の賦課処分は違法の処分である。

第四点 原判決は所得税法三条二項の法解釈を誤つており、これは、判決に影響の及ぼすことの明らかな法令違背である。その理由は次の通りである。

原判決は、所得税法二条一項三号にいう住所の意義は、民法二一条に言う住所、即ち「生活の本拠」と同一の意義を有するものであるとするが、この「生活の本拠」という概念は、フランス民法(一〇二条)にならつたもので、人の生活関係の中心である場所であるという以外あまりはつきりしないと言われ、現代人の複雑に分化した生活状態については、民法の住所に関する規定の意味は、ほとんど無いと言つてもよいと言われるぐらいである。今日民法上の住所については、生活関係の種類に応じて分化した幾つかの住所があり、各々の法律関係について、それと最も関係の深い場所をそれに関する住所とするのが妥当と考えられるとされるぐらいである。民法以外の私法についても同様であるが、特に公法にあつては、各法令における住所は、民法二一条とは別に独自の立法趣旨に従つて定められているものであつて、仮に各法令の住所について「生活の本拠」と言う用語を使用したとしても、それは民法二一条の「生活の本拠」と全く同一とは限らないものである。所得税法にあつてもその例外ではないが、特に一定の場合については、「生活の本拠」とは全く関係なく、住所の意義について特別な規定を設けているのである。法三条がこの特別の規定であつて、その一項においては国家公務員並びに地方公務員について、二項においては居住者及び非居住者の区分に関し、「国内に住所を有する」と言う表現の下に住所につき特別な意義を定め、民法上の住所の意義とは異なつた意義に用いているのである。原判決は、この三条の解釈についても、法の文言と趣旨に照らし民法上の住所の意義と同一であることは、現行法体系上明らかであるとするが、一項において、「国内に住所を有しない期間についても国内に住所を有するものと見なす」とあるように、この住所の意義は全く「生活の本拠」とは無関係であつて、原判決が全く所得税法の解釈を誤つているものであることは明らかである。そして、法三条二項は、その「国内に住所を有する」かどうかの判定に必要な事項(判定基準と同義)を政令に委ねており、これをうけて同法施行令(以下令と称する)第一四条、第一五条が設けられたものである。原判決は、同令の条項を単に住所の推定規定であつて、居住者及び非居住者の区分についての住所の判定基準でないとするが、同令には他に住所の判定基準に当たる規定はなく、上記法三条二項と照らし合わせると、本規定が住所の判定基準であることは明らかであつて、そうでなければ、法三条二項は空文に帰し、内閣は憲法七三条一号及び六号に反し法律を誠実に執行しないこととなつて、全く不合理な結果となるからである。原判決はこれにつき、「それをうけて、令一四条一項は国内居住の個人が国内に継続して一年以上居住することが予想されるような事象又は状況が存するときは、当該個人は国内に住所を有する者と推定する旨を定めているものに過ぎず、右各規定は、国内に住所を有するとすべきか否かが明確でない個人について適用される推定規定であつて、国内に住所を有することが明らかな個人についてまで適用する必要のないものである」とするが、民法上の住所を推定するのに、「国内において、継続して一年以上居住することを通常必要とする職業を有する」とか、「国内において、継続して一年以上居住することを通常必要とする職業を有する」とか、「国内において継続して一年以上居住するものと推測するに足りる事実がある」というような要件等は全く不要であつて、これは、むしろ民法上の住所の推定規定と明らかに異なる規定であると言うべきである。さらに法三条二項が、国籍いかんにかかわらず適用されることは、同条一項の条文との対比によつて明らかであり、また居住者と非居住者との区分一般に適用される規定であつて、それが不明確の場合のみに適用される規定でないこともまた、二項の条文に何らの限定も無いことから明らかである。そもそも本規定は、国内に住所を有するかどうかの判定基準そのものであつて、国内に住所を有することが明らかである個人と判定するには、この基準によつてのみ決定されるのであり、この基準とは別の他の基準で、国内に住所を有することが明らかであるとし、このような個人に適用する必要のない基準である、とするような法解釈は許されない。その様な解釈は、犬(非猫)か猫かの判定基準が規定された場合に、この判定基準とは全く別の判定基準により、これは猫であることが明らかであり、このような明らかな猫にまで適用される必要のない基準であると言うようなものである。本訴はこの国内に住所を有するかどうかが不明であるからこそ争われているものであつて、正しく法三条二項によつて判定すべきである。本規定を受けた令一四条は、法律上の推定という形態をとつているが、その内容を見れば、国内に住所を有するものについての判定基準であつて、法二条一項三号の「又は現在まで引き続いて一年以上居所を有する」と言う規定と対比すれば、これには継続一年以上ということが重要な要素となつていることが伺い知れる。令一四条は、法律上の推定でこの要件を緩和しているものであつて、かかる事実を立証しなくとも、職業あるいは一定の推測事実でこの用件を満たしうるものとしたのである。したがつて、原判決のように「同人が本件係争期間中引き続き国内に一年以上居住したことがなかつた」とすれば、被上告人が令一四条の規定によつて法律上の推定を受ける事実を立証しない限り、同人を国内に住所を有するものと認定をすることができないのであつて、これを適用せず、民法上の住所を基準とし、同人を国内に住所を有する者と認定した原判決は、法二条一項三号、三条二項に違背した解釈に基づく判決である。

以上

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